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「それ、うちの部署じゃないんで」が連発する組織で、私が生き残った方法——分業制の罠と、その突破口

営業に聞けば「それは技術部の管轄」、技術部に聞けば「営業から要望が来てない」。組織の壁にぶつかって動けなくなる経験は、誰にでもあるはずです。40年でこの壁を何度も越えてきた経験から、若手にも今日からできる5つの突破法をお伝えします。

「それ、うちじゃないんで」を、私は何度聞いただろう

30代の頃、私は営業として動いていて、顧客から「商品の仕様変更ができないか」という相談を受けました。技術部に持っていくと「営業から正式な要望書が来ていない」と門前払い。営業企画部に行くと「それは技術部の判断」と言われ、結局1ヶ月たっても話が進まない。顧客はその間に競合に流れていきました。

これは私の特殊な体験ではありません。組織で働く誰もが、必ずこの「壁」にぶつかります。組織と書いて矛盾と読む、と私は冗談で言っていましたが、これは半分本気です。組織は便利な反面、必ず壁を生みます。

本記事では、40年でこの壁と何度も格闘した経験から、若手にも今日から使える「壁の突破法」を5つお伝えします。

そもそも、なぜ組織は分業制を取るのか

分業制への不満を語る前に、なぜそうなっているかを理解しておきましょう。

1人で全部やる小さな会社では、確かに「壁」はありません。でも、それは10人くらいまでの話。100人を超えると、全員が全員のことを把握するのは物理的に不可能になります。だから役割を分け、専門化させる。これが分業制です。

分業制には3つの大きなメリットがあります。

これらは事実です。だから分業制は、悪ではありません。

でも、必ず「影」が生まれる

問題は、この光に必ず影が伴うこと。

分業制の光分業制の影
専門性が深まる視野が狭くなる
責任が明確になる「うちじゃない」が増える
大規模化できる連携コストが爆増する

特に厄介なのは2つ目——「責任が明確」の裏返しで、「責任の境界」も明確になることです。境界の外側にあるグレーゾーンが、誰のものでもなくなる。冒頭の私の話は、まさにこの「グレーゾーンの放置」でした。

40年見てきて感じるのは、会社の仕事の大半は、実はこのグレーゾーンに落ちているということ。明確に「営業の仕事」「技術の仕事」と分けられるものは、全体の3割もないかもしれません。残り7割は、複数部署にまたがるグレーゾーンです。

突破法1:「自分のせいにする」が最強の武器

20代の私は、組織の壁にぶつかると「あの部署が動かないせいだ」と憤っていました。これが最大の間違いでした。

40代になって気づいたのは——「相手のせいにした瞬間、自分は無力になる」ということです。相手が動いてくれない限り、何も進まない状況を自分で作っているのです。

逆に「これは自分の責任だ」と引き受けた瞬間、自分が動ける範囲がぐっと広がります。「技術部は要望書がないと動けない」と言うなら、自分で要望書を書いてあげればいい。「営業からの正式な依頼が必要」と言うなら、自分の上司を動かして依頼してもらえばいい。

これは「他人の仕事を肩代わりしろ」という話ではありません。「壁の手前で立ち止まらず、壁を越えるための行動を、自分の側で取る」という姿勢の話です。

突破法2:「人」を動かすには「顔」を作っておく

組織の壁を越える時、最終的にものを言うのは「人と人の関係」です。

30代の私が、ある時期から急に他部署と仕事が進むようになった理由は、たった一つ——用がない時に他部署に顔を出していたからです。

毎週金曜の夕方、技術部の隣の自販機にコーヒーを買いに行く。そのついでに「最近どうですか」と1〜2分話す。これだけ。雑談の中で、技術部の状況や悩みが見えてきます。逆に、技術部の人も私の存在を覚えてくれる。

1年後、何かを依頼する時の対応が劇的に変わりました。「あの人の頼みなら、ちょっと急ぎでやってみるか」と動いてくれるようになったのです。

若手のうちは、この「用のない訪問」が遠慮されがちです。でも、これこそが10年後に効いてきます。組織の壁を越える本当の力は、関係性の貯金で決まります

突破法3:「翻訳者」になる

分業の弊害が起きる最大の理由は、各部署が違う言語を話しているからです。

営業部は「お客様」「売上」「納期」で語る。技術部は「仕様」「品質」「工数」で語る。同じ会社にいながら、辞書が違うのです。だから、営業の「お客様が困っている」を技術部に伝えても、「で、何が問題?」と返ってくる。

30代後半の私が突破口を見つけたのは、自分が「翻訳者」になったことでした。営業部の依頼を、技術部の言語に翻訳する。技術部の懸念を、営業部の言語に翻訳する。

営業の言語翻訳すると技術の言語
お客様が機能Aを求めている仕様変更箇所3点、工数X人日
お客様の予算が厳しい機能Bを削減し、コストY%減

翻訳できる人は、組織で重宝されます。なぜなら、組織のグレーゾーンの大半は「翻訳されていない問題」だからです。両側の言語を理解できる人が現れた瞬間、止まっていた話が動き出します。

突破法4:「小さく始めて、後から正式化」

大きな施策を本流ルートで通そうとすると、各部署の調整に半年かかります。その半年で熱が冷め、関係者が異動し、結局立ち消える——これは私が何度も経験したパターンです。

40代で確立した戦略は、「小さく始めて、後から正式化する」でした。

  1. 関係者2〜3人で、まず非公式に動かしてみる
  2. 小さな成果が出たら、それを材料に上層部に上げる
  3. 「これだけ成果が出ているので、正式に予算を」と提案

これは正式ルートでは絶対に通らない発想ですが、現場で何かを動かすときには驚くほど効きます。なぜなら、ゼロから提案するのと「すでに成果が出ている」を伝えるのとでは、上層部の判断スピードが10倍違うからです。

もちろん、完全に勝手に動くのは危険なので、自分の直属の上司には事前に「こんな実験をしたい」と伝えておきます。「正式な決裁は不要なレベルで動かしますね」と。

突破法5:「敵」を作らない

40年で何度も見たのは、「正論」を振りかざして組織を変えようとした人が、結局潰されていく姿でした。

「あの部署のやり方は間違っている」「この制度は時代遅れだ」——確かに正論です。でも、それを公の場で言った瞬間、相手に「敵」と認識されます。組織で敵を作ると、その人は徐々に動けなくなります。

若手のうちは、特にこれが致命傷になります。私自身、20代後半に経理部の運用に文句を言って、その後3年間、経理部から冷遇されました。当時の自分を引っ張り込んで叱りたいくらいです。

変えたいことがあるなら、「相手を否定せずに、別案を提示する」。これに尽きます。「今のやり方は間違い」ではなく「今のやり方の良さは残しつつ、こういう改善案はどうでしょう」と。同じ内容でも、敵を作るかどうかは天と地の差です。

ケーススタディ:他部署と1年間口を利かなかった部下Kさんの転換

40代の管理職時代、部下のKさんは隣の部署と完全に対立していました。「あの部署が協力しないせいで、自分の成果が出ない」と毎週のように愚痴を言っていた。

私は彼に1つだけ提案しました。「来週、隣の部署の課長にコーヒーを奢ってきて。仕事の話はせず、ただ世間話だけ」。

最初は「そんなことで何が変わるんですか」と渋っていましたが、3週間続けたところ、Kさんから報告がありました。「先週、隣の課長がうちの案件を優先してくれました」と。

1年後、Kさんは「他部署と一番うまくやれる人」として社内で知られるようになっていました。組織の壁は、制度ではなく感情で出来ている——これが彼の体験から証明されたことでした。

まとめ:壁は越えるものではなく、薄くするもの

組織の壁は、なくなりません。分業制を取る限り、必ず存在します。だから「壁をなくそう」と頑張る人は、永遠に消耗します。

大事なのは、壁の厚さを「自分側から」薄くしていくこと。顔を作り、翻訳し、小さく動き、敵を作らない。これらの積み重ねが、5年後10年後に「あの人なら他部署を動かせる」というポジションを作ります。

もし1つだけ始めるなら、突破法2の「用のない訪問」。週に1回、5分だけ。これが10年後、あなたを救います。

組織は矛盾の塊です。でも、その矛盾を「自分側から」溶かしていける人は、どんな会社でも生きていけます。