「上司と書いて理不尽と読む」と本気で思っていた頃

入社して数年経った頃、私は本気でこう思っていました。

「上司」と書いて「理不尽」と読むのではないか、と。

あなたも経験はないでしょうか。

「なんでこんな人が上司になれるんだ」と心の中で叫んだ回数は、20代だけで数百回はあったと思います。

しかし40年のサラリーマン人生を経て、自分自身が管理職になり、さらに上の立場の景色まで見えてきた今、当時の上司への見方がかなり変わりました。

結論から言うと——理不尽さには、意外と単純な構造があったのです。

管理職になって見えた、上司が理不尽になる三つの構造

構造1:上司もまた「上から理不尽な要求を受けている」

これは管理職になって初めて骨身に染みて分かったことです。

課長は部長から、部長は本部長から、本部長は社長から、それぞれ無茶な要求を日常的に受けています。「今期中に売上20%アップ」「人を増やさず工数だけ削減」「詳細は後で詰めるからとりあえず動け」——こうした上から降ってくる理不尽が、最終的に若手社員のところで具体的なタスクとして現れるのです。

つまり、若手から見て理不尽に見える指示の多くは、上司が自ら生み出したものではなく、組織の連鎖の中で下に流れてきた波です。

構造2:会社の方針が変わるスピードが、現場に追いつく前に変わる

市場環境や経営判断は刻々と変わります。先週の正解が今週の不正解になることは珍しくありません。

そうすると、上司の指示は必然的にコロコロ変わります。ブレているのは上司ではなく、会社の意思決定そのものであるケースが多いのです。

若手の頃は「またこの人言うこと変わった」と腹を立てていましたが、管理職になって自分も同じことをするようになり、ようやく理解しました。

構造3:見切り発車の文化

多くの企業では、リソースも情報も不足したまま走り出します。「やりながら考える」が常態化しているのです。

結果として、上司は不完全な情報のまま部下に指示を出さざるを得ないことが多く、これが「説明不足」「途中での方針変更」として若手の目に映ります。

理不尽な上司に潰されないための5つの視点

1. 感情ではなく、構造で受け止める

理不尽な指示を受けたとき、最初の30秒は「ふざけるな」と感じてOKです。それは健全な反応です。

ただし、その後に必ず一呼吸おいて、「これは上司個人の問題か、それとも構造の問題か」と問い直してください。

多くの場合、答えは構造の問題です。すると感情の温度が下がり、対処の選択肢が見えてきます。

2. 上司の「上」を想像する

理不尽な指示の背景には、ほぼ必ず上司の上司の存在があります。

「この指示はどこから降ってきたのだろう」「上司は誰に説明責任を負っているのだろう」——こうした問いを立てると、上司の言動の理由が見えてきます。

これは管理職予備軍として最も大切な視点です。会社全体の力学を理解できる人だけが、出世していきます

3. 「目的」を確認する勇気を持つ

「これ、何のためにやるのか教えてください」——この一言が言えるかどうかで、若手の成長スピードは段違いに変わります。

聞き方には工夫が必要です。「指示の意図がわかりません」では反発に聞こえます。「より良いアウトプットを出したいので、最終的に何に使われるか教えていただけますか」と聞けば、大抵の上司は答えてくれます。

目的が分かれば、指示の細部に多少の矛盾があっても、自分で判断して埋められるようになります。

4. 反面教師として記録する

理不尽な上司は、最高の教科書です。

「自分が管理職になったとき、この行動だけは絶対にしない」というリストを作ってください。私自身、若い頃に出会った理不尽な上司たちの言動を密かにメモしていました。

そして自分が管理職になったとき、そのメモが「やってはいけないことリスト」として恐ろしいほど役に立ちました。

5. 心と体が悲鳴を上げる前に、必ず逃げる

これは何より大切です。

構造を理解しても、視点を変えても、どうしても耐えられない上司は存在します。パワハラ、人格否定、過剰な業務量——これらが続く環境で頑張り続けるのは、美徳ではなく自傷行為です。

選択肢は必ずあります。

「逃げる」のではありません。自分の人生の主導権を取り戻すのです。心身の健康を失ってまで耐え続ける価値のある会社は、この世に存在しません。

管理職になって心がけてきたこと

自分が管理職になってからは、若手時代の憤りを忘れないように意識してきました。

「なぜ」を必ず添える

指示を出すときは、できる限り「なぜそれをやるのか」を一緒に伝えるようにしました。背景が分かれば、部下は自分で判断できる範囲が広がります。

方針変更は「謝ってから伝える」

会社の方針が変わって指示が変わるとき、「申し訳ない、状況が変わった」と一言添えてから新しい指示を出すようにしました。たったそれだけで、部下のストレスはかなり減ります。

部下を守る

トラブルが起きたとき、上に対して部下の盾になることは管理職の義務です。「責任は私が取る」を口先で終わらせない——これが信頼を作る最大の要素だと、若手時代の経験から学びました。

まとめ:理不尽は乗り越えられる、ただし無理はしない

「上司と書いて理不尽と読む」と感じる時期は、ほぼすべての会社員が通る道です。

しかし、その理不尽さの多くは個人の人格ではなく、組織の構造から生まれていることを理解すると、対処の幅が広がります。

この5つを覚えておいてください。

そして、いつかあなたが管理職になったとき、若い頃の自分が憤りを感じた指示を出していないかを定期的に振り返ってほしいと思います。

理不尽の連鎖を断ち切れるのは、それを経験して理解した世代だけです。