「PDCAは知ってます」と「PDCAが回せます」は別物
PDCA(Plan-Do-Check-Act)という言葉を、社会人で知らない人はいないでしょう。新人研修で必ず習い、ビジネス書でも繰り返し説明される、最も有名なフレームワークの一つです。
でも、40年見てきて思うのは——「PDCAを正しく回せている人は、20人に1人もいない」ということです。多くの人は「Plan」と「Do」だけで終わります。Checkは形だけ、Actは存在しない。これでは回っているとは言えません。
近年「PDCAは古い、OODAだ」という議論もありますが、私はPDCAは今でも有効だと思っています。古いのはPDCAではなく、PDCAの回し方です。本記事では、若手のうちから使える「実用版PDCA」を、私の経験を交えてお伝えします。
なぜPDCAは「回らない」のか
20代の頃、私もPDCAの言葉だけ知っていて、実際には全く回せていませんでした。今思えば、理由は3つありました。
- Planが大きすぎる——半年単位の計画で、振り返るタイミングが来ない
- Doで力尽きる——実行で疲れて、Checkに行く気力がない
- Checkが感想で終わる——「頑張った」「次はもっと」で具体策がない
これでは回りません。でも実は、これら3つは全部「設計」の問題です。PDCAは意志ではなく、設計で回すもの。これに気づいたのが30代後半でした。
実用版PDCA・原則1:「1週間PDCA」で回す
多くの人は、PDCAを四半期や半年単位で回そうとします。でも、これが最大の失敗です。
私が30代後半に切り替えたのは、「1週間で1サイクル」でした。月曜にPlan、火〜金にDo、金曜の夕方にCheckとAct。たったこれだけ。
| 曜日 | やること | 所要時間 |
|---|---|---|
| 月曜朝 | Plan:今週の目標と行動を3つ決める | 15分 |
| 火〜金 | Do:実行する | — |
| 金曜夕方 | Check:何が出来て何が出来なかったか | 10分 |
| 金曜夕方 | Act:来週の改善点を1つだけ決める | 5分 |
合計30分で、1週間のPDCAが完成します。短いサイクルだから、必ず回せる。50回失敗するより、52回小さく振り返る方が、圧倒的に早く成長します。
実用版PDCA・原則2:Planは「3つだけ」
1週間Planで決めるのは、3つの行動だけ。10個書く必要はありません。
3つに絞るルールはシンプルです。
- 1つ目:必ず終わらせる「最重要タスク」
- 2つ目:今週着手したい「新しい挑戦」
- 3つ目:継続している「習慣の改善」
例えば、20代の若手なら——
- 1つ目:A社の見積書を金曜までに提出する
- 2つ目:先輩に同行営業を1回お願いしてみる
- 3つ目:朝の30分集中タイムを5日継続する
これくらいの粒度です。多くの人がPDCAで失敗するのは、Planの粒度が大きすぎるから。「営業力を上げる」ではPlanとは言えません。「来週月曜に何をするか」まで具体化されて初めてPlanです。
実用版PDCA・原則3:Checkは「数字」で見る
「頑張った」「次はもっと」で終わるCheckは、Checkではありません。Checkに必要なのは、「数字で判定できる事実」です。
金曜の夕方、私が今でもやっているのは、こんなチェックです。
| 計画 | 結果 | 判定 |
|---|---|---|
| A社の見積書を提出する | 木曜に提出した | ◯ |
| 先輩に同行営業を依頼する | 声をかけたが、まだ実現していない | △ |
| 朝の30分集中を5日継続 | 3日で2日サボった | × |
この◯△×を機械的につけることが、最強のCheckです。「頑張ったか」ではなく「やったか、やらなかったか」だけを見る。感想ではなく事実で見ると、自分の癖が見えてきます。
例えば「いつも△と×の項目に共通点がある」と気づくと、それが自分の弱点です。私は20代の頃、人に何かを依頼する系のタスクが必ず△で終わっていました。これが「自分は人に頼むのが苦手」という弱点を可視化したのです。
実用版PDCA・原則4:Actは「1つだけ」
Checkで反省点が3つ見つかると、人は3つ全部直そうとします。これが続かない原因です。
私のルールは、「来週の改善点は1つだけ」。3つ反省点があったら、1つだけ選ぶ。残り2つは、再来週以降にとっておく。
例えば前述の例なら、×だった「朝の30分集中」を改善するのが優先かもしれません。来週のActは「朝、出社後すぐに机に向かわず、まず3分だけタスクを書き出す」とか。具体的な行動を1つだけ決めて、来週のPlanに組み込む。
これが循環するから、PDCAなのです。多くの人は、PDCAをCAが抜けてP-Dだけで回している。だから何年たっても同じ失敗を繰り返します。
実用版PDCA・原則5:「失敗をログに残す」
40代で確立した最後の習慣は、失敗ログを残すことでした。
うまくいったことより、うまくいかなかったことの方が、はるかに価値があります。なぜなら、人は同じ失敗を繰り返すからです。失敗を書き残しておくと、次に同じ場面に直面した時、過去の自分が助けてくれます。
私の失敗ログ(管理職時代)の例——
- 「会議の前に資料を共有しなかったら、議論が散らかった」(→ 事前共有を必須に)
- 「他部署への依頼を口頭でしたら、3日経っても動かなかった」(→ メールで証跡を残す)
- 「忙しい時に部下のフィードバックを後回しにしたら、本人が不安になっていた」(→ 多忙時こそ短くてもいいから即返す)
10年分の失敗ログがあると、それは「自分専用の最強教科書」になります。本屋で売っているビジネス書より、ずっと役に立ちます。
ケーススタディ:1年で営業成績がチームトップになった部下Hさん
40代の管理職時代、新人として配属された部下Hさんは、最初の3ヶ月はチーム最下位の成績でした。私は彼に「実用版PDCA」を教え、毎週金曜にCheckを一緒にやることにしました。
Hさんが最初に気づいたのは、彼の×が「商談後のフォローアップ」に集中していることでした。会いに行くまでは出来ているのに、その後の追いかけができていなかった。
そこからActは「商談から24時間以内に、必ず何か一通メールを送る」とシンプルでした。それを4週間続けたところ、彼の受注率が1.5倍になりました。1年後、Hさんはチームのトップ営業として、新人としては異例の表彰を受けました。
彼が特別優秀だったわけではありません。「気づいて、直して、続ける」を毎週確実に回しただけです。これがPDCAの本来の姿です。
まとめ:今週の金曜から始められる
PDCAは、四半期報告のためのフレームワークではありません。毎週、自分の仕事の質を上げ続けるための、最強のツールです。
もし今週から始めるなら、たった一つだけ実験してみてください。
金曜の夕方、退社前に10分だけ。今週やった3つのことを書き出して、◯△×をつける。それだけ。
これを4週続けてみてください。あなたの仕事の癖、強み、弱点が、自分でも驚くほど可視化されます。可視化できたものは、改善できます。改善できると、結果が変わります。
PDCAは古くありません。古いのは、PDCAを「言葉だけ」で終わらせる回し方だけです。