「頑張りの量」と「評価」がズレる理由
20代の頃、私は同期で一番長く会社にいました。誰よりも残業し、頼まれた仕事を断らず、土日もメールに返信していました。それなのに、3年目の昇給で、私より早く帰っていた同期Aの方が評価されたのです。
当時の私は本気で腹を立てました。「真面目にやっている方が損をするのか」と。でも今、40年たって振り返ると、答えはシンプルでした。会社は「労働量」ではなく「需要と供給」で評価していたのです。
本記事では、この「需要と供給」という視点を、若手の会社員向けに具体的に解説します。これを20代で知っていたら、私の30代は全く違うものになっていたと思います。
給料は「あなたの価値」では決まらない
多くの人が誤解しています。給料は「あなたの能力」や「あなたの努力量」では決まりません。決まるのは、「会社内で、あなたの提供するスキルがどれだけ希少か」です。
これは経済の基本原則と同じです。水とダイヤモンドを思い出してください。水は生きるのに不可欠ですが、安い。ダイヤモンドは無くても困らないが、高い。なぜか?——供給の差です。
会社の中も同じ構造です。「いくら頑張っても評価されないスキル」と「ちょっとできるだけで重宝されるスキル」がある。前者で頑張っても、給料は上がりません。
需要と供給で見る、4つの象限
あなたが今やっている仕事を、この2軸で考えてみてください。
| 需要が高い | 需要が低い | |
|---|---|---|
| 供給が少ない(希少) | ① 高給ゾーン | ② ニッチゾーン |
| 供給が多い(誰でも) | ③ 普通ゾーン | ④ 危険ゾーン |
- ① 高給ゾーン——会社が今ほしくて、できる人が少ない。ここに入ると評価が一気に上がる
- ② ニッチゾーン——希少だが、会社のニーズと合っていない。趣味のレベル
- ③ 普通ゾーン——必要だが代替可能。給料は中央値あたりで止まる
- ④ 危険ゾーン——今後AIや外注で消える可能性が高い
20代の私が頑張っていたのは、③か場合によっては④でした。長時間労働で量をこなすのは、誰でもできる仕事の量を増やしているだけ。供給を増やしているのです。これでは給料は上がりません。
同期Aが評価された本当の理由
当時の私を追い抜いた同期Aは、何が違ったのか。
彼は、配属直後から「会社が今困っていること」を観察していました。当時、私たちの部署は新しい業務システムの導入で混乱していました。みんなが「面倒くさい」と避けていた領域です。
Aはそこに飛び込みました。マニュアルを誰よりも先に読み込み、システムの操作方法を覚え、他の人の質問に答えるようになった。3ヶ月後、彼は部署内で「システムのことならA」というポジションを獲得していたのです。
これがまさに象限①——需要が高く、供給が少ない領域でした。Aは長く働いていません。むしろ私より早く帰っていた。でも、彼が提供していたスキルの価値は、私のそれより圧倒的に高かったのです。
若手がやるべき3つのアクション
アクション1:会社が「今困っていること」を観察する
毎週、上司や先輩がため息をつく瞬間を観察してみてください。「これ誰かやってくれないかな」「面倒だな」と言葉に出ている領域こそ、需要があるのに供給が少ない領域です。
新しい業務システム、英語の対応、データ分析、SNSの運用、社内の調整事——会社によって異なりますが、必ず「みんなが避けたいけど、必要な仕事」があります。そこに手を上げるのが最短ルートです。
アクション2:「掛け合わせ」で希少性を作る
1つのスキルで「希少」になるのは難しい。でも、2つを掛け合わせると、誰もいない領域になります。
| 1つだと… | 掛け合わせると… |
|---|---|
| 営業ができる人 → たくさんいる | 営業 × データ分析 → 少ない |
| 経理ができる人 → たくさんいる | 経理 × 英語 → 少ない |
| エンジニア → たくさんいる | エンジニア × ビジネス理解 → 非常に少ない |
1つひとつのスキルが「平均」でも、組み合わせれば「会社で唯一の存在」になれます。これが20代後半〜30代前半でやるべき仕込みです。
アクション3:「やらない仕事」を意識的に増やす
これは意外と重要です。すべての仕事を引き受ける人は、③の普通ゾーンに留まります。
あなたの時間は有限。「誰でもできる仕事」を引き受け続けると、「希少なスキル」を磨く時間がなくなります。私が30代で気づいたのは、「忙しさ」と「評価」は比例しないということでした。むしろ、「あの人はあれが得意」というポジションがある人ほど、忙しさより評価が先行していたのです。
転職市場でも同じ
これは社内だけでなく、転職市場でも全く同じ法則が働きます。
「英語ができます」だけの人材より、「英語×製造業の知識」「英語×IT営業」の方が、年収提示は段違いに高い。これも需要と供給の話です。
だから20代のうちは、1つの会社で3〜5年、専門性を作るのが意外と有効です。「すぐ転職」が話題になりますが、何の専門性もないまま転職を繰り返すと、結局③の普通ゾーンを移動するだけになります。
ケーススタディ:30代で年収を1.7倍にした部下Mさん
40代の管理職時代、部下のMさんは、入社時は普通の総務スタッフでした。彼女が変わったのは、社内で「労務」の専門性を3年かけて磨いたからです。
働き方改革、メンタルヘルス、ハラスメント対応——どれも「面倒で誰もやりたがらない」領域でした。でも法改正でどんどん重要性が増していた。Mさんは社労士の勉強を始め、社内で「労務といえばM」のポジションを確立しました。
5年後、彼女は同業他社からスカウトを受け、年収1.7倍で転職しました。「総務」のままだったら、絶対に起きなかったキャリアです。
Mさんがやったのは、「会社の中で需要が伸びている領域」を早く見つけ、そこで唯一無二になることだけです。
まとめ:頑張る前に「どこで頑張るか」
真面目に働くのは大事です。でも、それは前提です。その上で「どこで頑張るか」を選ぶことが、給料と評価を決めます。
今日、職場でこう問いかけてみてください。
- うちの部署で「みんなが避けている、でも必要な仕事」は何か?
- 自分の今のスキルに、何を掛け合わせると希少になるか?
- 「やらなくていい仕事」を1つ手放せるか?
20代の私に伝えたいのは、たった一つ——「労働量より、希少性」。これに気づくのが早いほど、人生は楽になります。